


その15 果たして、魔術師と会えるのか


ジルダの街を出ると、再び草原に出ました。今度は道がありません。見ると、あちこちに大きな石があります。石はそれぞれ形が違っていて、顔のような形をしているものや、彫刻のようなものもありました。自然の力で少しずつ削れているようです。

地図を見てサキが言いました。

「えっと、ここからは南東の方向に向かって、15個目の石まで行く、すると斜め左に森が見える。その森が魔術師の住む森だって。」

「え、もう近いの?」

タカシとミャーポンの緊張は高まりました。しかし、ひとつひとつの石がとても大きく、見えてはいるものの、次の石にたどりつくまでに15〜20分ほどかかりそうです。確かにこのペースですと、森につくのは夕方遅くになりそうです。

時間はかかったものの、すんなりと森の入口に到着しました。そこには自然の木で出来た門があり、木の札が掲げてありました。

『魔術師ミルカの森・入口』

特に、「入るべからず」とかそういった文言は書かれていません。二人は少し安心しました。森に入ると、夕刻が迫っているせいか既に薄暗く、時折バサバサと鳥が飛ぶ音に驚かされ、嫌な雰囲気です。

「もう、近いよ。」

一度来たことのあるサキがそう言うと、白い霧のようなものが立ちこめてきました。一気に緊張が高まります。すると、今度は大きなお屋敷が見えてきました。ここにも看板が掲げてあります。

『魔術師ミルカの森・御用の方はベルをお鳴らしください。』

意外と歓迎ムードのその看板に驚きましたが、今まで誰も会えていないということは、鳴らしても出てこないと言うことなのだろうか、それとも何か幻覚とかを見せて追い返すのだろうか、タカシの想像は膨らみます。

「サキちゃんが、前に来た時はどうだったの?」

「あのね、それぞれ順番にベルを鳴らしたんだけど、インターホンで『帰れ』って言われたの。」

「インターホン!?意外とちゃんと応対はするんだ…。で、そのときは何人で来たの?」

「そのときは200人、順番にインターホンを鳴らしたのよ。」

タカシは『やっぱり、完全に嫌がらせじゃないか…。』と心の中でつぶやきました。

「どうする。」

ミャーポンが真剣な口調で言いました。

「タカシが行くか、俺が行くか。俺は最終兵器だからな、まずタカシ行けよ。」

「ちょ、ちょっと待ってよ。やっぱり先にネコが行くべきなんじゃないの?だって、人間の僕が行ってだめだったらどうするのさ。」

「どうするも何も、先だろうが後だろうが、ダメなものはダメだろう。」

「じゃぁ、どっちが先に行ったっていいじゃないか。」

『男って、肝心な時こうなのよねぇ。前来た時もそうだった…。』サキはそう呟くと、いきなり屋敷のベルを鳴らしました。

「ビー。」

それまで言い争っていた二人は、何事が起こったのかと口を閉じました。そして、ベルが押されたという状況をすぐに理解しました。すると、自然に門と玄関のドアが開きました。

「サキ、前もこうだったのか。」

「違う。前はインターホンで『帰れ』って言われたもの。」

「これは入れってことじゃないのかなぁ。」

三人は顔を見合わせました。そしてミャーポンは言いました。

「誰が行く?」

「チョット、待ってよ。まだ心の準備が…。」

と、タカシが言うと。

「バカヤロー。準備なんてもう前から出来てるだろうが。これが目的で来てるんだぞ。」

「じゃぁ、ミャーポン行ってよ。」

「ま、待てよ。そういうことは計画的にだな…。」

サキはイライラして怒鳴りました。

「三人一緒に入ればいいでしょ!これだから男は、全くだらしが無い。」

「はい。」

二人はサキに首を掴まれ、引きずられるように屋敷へと入っていきました。屋敷の玄関はクリーム色の空間になっていて、一見何もありません。建物の中にも霧が立ち込めているようです。そして、その向こうにはもうひとつの扉が見えました。

「あそこから次に進むのかなぁ。」

ミャーポンはサキに言われた言葉にカチンときたのか、男の意地を見せるため、勢い良く大声で怒鳴りました。

「おい、魔術師。出て来い。」

タカシは焦りました。

「ちょ、ちょ、ちょっと。それはまずいんじゃないの。」

「ウルサイ!出て来い!姫の呪いを解け!」

ミャーポンはそう言うと、クリーム色の壁を蹴り上げました。すると、スーッと霧が動き出しました。霧が晴れるのかと思いきや、霧は足の形となり、ミャーポンをドーンと蹴り上げました。

「まったく今の子は、どういう口の聞き方を教育されているのかねぇ。」
と、老婆のような声が聞こえました。ミャーポンを蹴り上げた霧の力は思ったより強く、ミャーポンはうずくまり咳き込みました。どうやら口の中を切ったらしく、咳き込むと同時に、床には赤い血がにじみました。

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