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スペース序章 | ウサネコ王国のミャーポン
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ウサネコ王国のミャーポン
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序 章 プロローグ〜タカシとミャーポン〜
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−それは突然の出来事でした。
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 今にも雪が降りだしそうな灰色のどんよりとした雲、 あたりは静まり返っています。タカシは小学校からの家路を急いでいました。
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「寒いなー。早く帰っておこた入りたいな。」
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 マフラーの隙間から、冷たい風は首筋に侵入してきて、思わずブルブルっと震えが全身に走ります。
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「あ、そうだ。」
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 タカシは近道を思い出しました。小学校とタカシの家の間には「カブト山」という小さな山があります。 普段はこの山を避けるように遠回りした道路を通っていますが、この山の脇には車は通れない幅の細い道がありそれが近道なのです。 このあたりはもともと山だったところを切り開いて作られた新しい団地で、 ところどころ団地の中に山だったという面影である自然が残されているのです。 カブト山を見たタカシはふと、幼い頃この山で遊んだことを思い出しました。
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「みんな、元気にやってるかな…」
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 ここは賃貸住宅の団地で、かつて一緒にカブト山で遊んだ仲間は皆新しい家へ引越し、この団地を出て行ってしまいました。 引っ越した先はみんなバラバラ。転校するときは、「手紙書くよー。」「電話するからねー。」と約束するのだけれど、 たとえそれがしばらく続いても、新しい学校に慣れるとだんだん疎遠になってしまいました。
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 今でも連絡を取っているのは、たくさんいたカブト山の仲間のうちではたったひとりユウジだけになってしまいました。 電話は時々しているのですが、昔のように毎日遊ぶことはできません。引っ越した先が、 電車でたった20分の距離でも小学生にとってはかなり遠いのです。それがもっと近く隣の駅だったとしても、 学区が違うというだけで距離を感じてしまいます。そう考えると小学生にとっての「電車で20分」というのは相当な距離です。 最近、ユウジと遊んだのも何ヶ月も前のことです。
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「山でいろいろ冒険したなぁ。」
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 卒業式を来月に控え、カブト山を見たタカシはそんなことを思い出していました。 もちろん今のクラスにも友達はいないわけではありません。 しかし、幼い頃遊んだ友達と冒険した思い出が、心の底からよみがえってきました。
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 小学校へ行くのがあと15回。そんなこと今まで考えたこともありませんでした。 ずっと毎日小学校へ行くのがあたり前、それがずっと続き卒業なんて遠い未来のことだと思っていました。 6年生になってもそれは変わりませんでした。 正月が来て、いよいよ小学生でいられるのもあと3ヶ月。そこまできてやっと、卒業を意識しだしたのです。 でもまだ実感はありません。
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 中学生になりたい気もするけどずっと小学生でいたい気もする。 クラスの友達と離れる寂しさ悲しさばかりじゃないけれど、 進学できる嬉しさや希望でいっぱいというわけでもありません。 タカシは自分でも今の気持ちを理解できませんでした。
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 そんな複雑な気持ちのなかに、はっきりとした感覚が存在しました。 それはこのカブト山を懐かしく思う気持ちです。 カブト山は入れないようにフェンスで周囲を覆われています。 近道をしてそのまま通り過ぎるつもりだったのですが、 タカシのなかによみがえった、カブト山に入りたいという気持ちが抑えられなくなってしまいました。 山に入れば、あの頃の仲間に、あの頃の気持ちに、あの頃の冒険に出会えるのではないか、 そんな錯覚に心が揺れたのです。
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 カブト山の周囲を囲むフェンスには、1ヶ所だけ穴が開いていました。 記憶をたどらなくても、その穴がどこにあるのかタカシの身体が憶えていました。 しかし、穴は記憶していたよりもとても小さく感じました。 6年生になり成長したタカシは、やっとのことでくぐり抜けることができました。
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「あの頃は、する抜けるように入れたのにな…。」
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 少し苦労しましたが、フェンスをくぐり抜けると懐かしい匂いがしました。 木々の匂い、土の匂い、草の匂い、何もかもが懐かしく思えました。 静寂のなか、ミシ、ミシ、と枯れ草を踏みながら、山の中へ入っていきます。 冬の夕方、山に人影はありません。
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「あ、この木の枝のところに、秘密基地を作ったんだよな…。」
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「この岩に座って、家から持ってきた弁当食べたっけ…。」
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 懐かしい記憶が、次々と思い出されます。
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 思い出に浸っていたそのとき、背後に懐かしい気配を感じました。そう、それは明らかに知ってる気配です。
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「久しぶりだね。」
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 タカシには、そう聞こえた気がしました。振り向くと、そこには1匹のネコが座っていました。
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「ミャーポン、ミャーポンじゃないか!」
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 −ミャーポン
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 ミャーポンとは、タカシたちが幼い頃このカブト山で遊んでいたとき、 どこからともなくやってきて一緒に遊んでいた野良ネコです。 ミルクをあげたり、ごはんをあげたり、毛布をひいて寝床を用意してあげたり仲良くしていましたが、 いつの間にか見かけなくなったのです。
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『気のせいかな、久しぶりって聞こえた気がするんだけど…。』
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 そう思いながら、ミャーポンを抱こうとした瞬間。
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「タカシ、久しぶりだね。」
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 !
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 タカシの耳にははっきり聞こえたのです。ミャーポンの声が。
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