


その2 ミャーポンは超!短気?


タカシは思わず聞き返しました。

「旅?旅に付き合って欲しいって?どういうこと?」

ミャーポンが、旅の相手を探していること自体にも驚いたのですが、ネコの旅に人間を誘うということが、タカシには全く理解できませんでした。大体、ネコの旅とはどういうものなのか、どこへ行くのか、どれくらいの間なのか、そんなことを考えているうちに、タカシは頭の中が少しパニックになってきました。ミャーポンが喋りだしたときは冷静だったタカシにもさすがに、この旅の話は思考の許容範囲を超えてしまいました。

「だから、旅だよ、旅。ふたり旅。」

ますますわけがわかりません。タカシは、とりあえずパニックになった自分の頭の中をひとつずつ整理していきます。そして、根本的なことから聞くことにしました。

「ミャーポン、いくつか聞いていい?」

「いいよ。」

「ミャーポンはどうして喋ることができるの?」

「はぁ?」

ミャーポンの表情は豹変し、いきなり怒りました。

「タカシ、今俺はなー。旅の話をしてるんだ。俺は話の腰を折られるのが一番嫌いなんだよ。なんで喋れるかって?頑張って覚えたからだよ。じゃあお前だって何でしゃべれるんだよ。当たり前のこと聞くなよ。ほら、もっと旅のことを聞けよ、旅のことを。」

そのとき、ミャーポンの足から爪が出ていたのをタカシは見逃しませんでした。「うわ、すげー短気。」タカシはそう思いましたが口に出さないことにしました。これ以上、今のミャーポンに旅以外の話をするのは危険だと判断したからです。

「旅って、どこへ行くの?」

ミャーポンはすぐに笑顔に戻って、座ったまま空を指し、腰に手を当ててこう言いました。

「ウサネコ王国。俺の故郷さ。」

「プッ。」

タカシは、その予想もしなかった何とも不思議で可愛らしい国の名前に噴きだしてしまいました。「ヤバい!」と思ったタカシは、思わず口を塞ぎました。

「まぁ、タカシが笑うのは無理もない。最近出来たばかりの国だから聞いたこと無いだろうな。」

さっきは短気だったミャーポンが、今度は怒りませんでした。タカシはほっとしました。話の筋が通っていれば、ミャーポンの機嫌は悪くならない様です。しかし、その「ウサネコ王国」がミャーポンの故郷という話なのに、最近出来たということが気になりました。

「それって、ネコやウサギと遊んだりするテーマパークみたいなところ?故郷なのに最近オープンしたの?リニューアルオープン?」

「違う違う。そういうのじゃなくて、この人間界とは別のところにある、ネコとウサギの王国だよ。少し前まではそれぞれ別の国だったんだけど、ネコとウサギの国が合併してひとつになったんだ。だから『ウサネコ王国』。俺は『ネコウサ王国』じゃないところが気に入らないんだけど、そう決まったから仕方ない。とにかく、ネコとウサギがハッピーに暮らす王国さ。」

タカシはまた驚きそうになりましたが、もう何もかもを受け入れる覚悟ができたのか、素直に受け止めることができました。

「で、そのウサネコ王国はどこにあるの?」

「お、興味がでてきたな、いいねー。ウサネコ王国はこの地球上にあるんだけど、人間界とは別次元なんだ。人間界からは、いくつか存在するワープゾーンを通ってしか行くことはできない。もちろんウサギ、ネコだけじゃなくて、イヌやサルといったやつらにもそれぞれ国がある。日本政府だって存在は知ってるんだよ。でも一般的には秘密になってんだ。混乱しちゃうからな。」

話を聞いたタカシは興味が沸いてきました。ウサギ、ネコ、イヌ、サル、それぞれに国があって暮らしている。「行ってみたい。」という気持ちが出てきました。ミャーポンの話は続きます。

「そのなかでネコというのは、ウサネコ王国と人間界を結構頻繁に行き来してるんだ。イヌと違って、ネコって飼いネコでも昼間フッといなくなることってあるだろ?」

「さぁ、僕ん家動物飼えないからわからな…。」

とタカシが話し出すと、ミャーポンはまた強い口調でタカシの言葉を遮りました。

「だから話の腰を折るな。一般論だよ一般論。ユウジん家のミケが、昼間よく一人で出歩いてるって話聞いたことあるだろ?」

確かに。タカシは過去にユウジからそんな話を聞いたことがありました。「そういえば、電話でユウジが言ってたな…。ミケは昼間いなくなるって…。ん?なんでミャーポンはユウジん家のミケのことまで知って…。」とタカシが考えていると、ミャーポンはタカシの肩へ登ってきて、タカシの目の前で手いや前足を振りました。

「おい、聞いてるか?おーい。」

「あ、あぁ。聞いてるよ。」

ミャーポンは、タカシの肩からスタッと降りると今度は岩にもたれず普通に座り、話を続けました。

「それでだ。昼間でかけるネコってのは、あちこちの公園や、草むらにあるワープゾーンから、ウサネコ王国へ里帰りしてるってわけなんだよ。」

「へー。そうなんだ。」

タカシは興味深く返事をしました。

「そう、そういうリアクションを待ってたんだよタカシ。かなり興味出てきただろ?」

「うん。でも、今から行くの?もう夕方だしどうしようかな。」

ミャーポンは呆れた様に言いました。

「あのな、旅に出るんだぞ。だいたい一日で終わるわけがないじゃないか。出発が夕方も朝もないだろ。」

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