


その3 ミャーポンはお・と・な


ミャーポンから旅に誘われたタカシ。タカシはミャーポンに言われて、それまでその旅の間の生活について全く考えていなかったことを隠すため、とっさにカチンときたフリをして強い口調で聞きました。

「じゃぁ学校とかどうすればいいんだよ。」

「大丈夫。ウサネコ王国にいる間、人間界の時間は止まっているんだ。というか同時進行じゃないんだ。今出発すれば戻ってくるのは今、この時間だ。まぁ、戻ってこられたらの話だけどな。」

「マ、マジで…?旅って何するんだよ。命にかかわるような旅なのか?一体どんな旅なんだよ。それを聞かないと何とも言えないよ。」

ミャーポンの「戻ってこられたらな」という最後の一言に、タカシはかなり不安になりました。ミャーポンはちょっと焦って明るく言いました。

「ちょっと大袈裟に言っただけだよ。旅っていうのは、姫の呪いを解くための旅なんだ。実はウサネコ王国の姫が呪いにかかっちまったんだよ。で、その呪いを解くためには、人間の力が必要なんだけど、一般の人間にウサネコ王国を知られるわけにはいかないんだ。信頼ができて、決してウサネコ王国のことをバラさない、秘密にできるヤツに協力してほしいんだよ。それでタカシに頼みたいんだ。」

信頼という言葉を聞いて、タカシは悪い気はしませんでした。でも、姫の呪いを解くという大仕事が自分にできるのかどうか不安になってきました。

「ねぇミャーポン。ちょっと考えさせて。」

ミャーポンは耳がクタンと折れ、急に元気が無くなりました。タカシはすぐに引き受けてくれると思っていたからです。しかし、タカシが迷うのも無理はありませんでした。ミャーポンもそれは分かっていたので、強引に頼む気はありません。今にも雪が降りだしそうな空を見上げじっと考えているタカシを、見つめることしかできませんでした。

タカシは迷っていました。姫の呪いを解くという大きな仕事が自分にできるのだろうか。もし戻ってこられなかったらどうなってしまうのか…。しかし、大切な友達であるミャーポンの頼みだし、ウサネコ王国へも行ってみたい。失いかけていた、『冒険をしたい』という気持ちが甦ってきたところにこの話です。もう、冒険は懐かしむものだけだと思っていたところに、もう一度、冒険ができるチャンスが訪れたのです。そう思ったタカシにもう迷いはありませんでした。そして何より、一番気になっていることをミャーポンに聞きました。

「あのさーミャーポン。ひとつ聞いてもいい?」

「何?」

「ウサネコ王国のお姫さまって、カワイイ?」

ミャーポンは『コイツ、今何考えてたんだ?』と、ちょっと疑いを抱きつつも明るく笑顔で答えました。

「はっきり言ってすごいよ。ビックリするくらいかわいいよ。タカシは絶対好きなタイプだな。保証する。帰ってこられる保証はできないけど、姫の可愛さは俺が保証する。」

結論は早かった。

「さぁミャーポン。旅へ出発だ。」

『お前、それでいいのか?戻ってこられるかどうかということはいいのか?』ミャーポンは心の中で呟きました。タカシの変わり様には驚きましたが、都合が良いのでそのまま話を進めることにしました。

「じゃぁ、姫の呪いの話や解き方とかは、ウサネコ王国に着いてから話すよ。あ、あと王様とか王女様には、くれぐれも無礼の無いように頼むよ。」

「わかってるよ。無礼って、それはミャーポンのほうが気をつけたほうがいいんじゃないの?」

「失礼なヤツだな。これでも王様の使いなんだぞ。」

ミャーポンはそう言いましたが図星でした。王様の前で時々やらかしてしまうことがあるのです。決して悪気がある訳では無いのですが…。

「で、ウサネコ王国へはどうやって行くの?あちこちにワープゾーンがあるんだよね?」

「そうだよ。この辺だと、あの池に飛び込むとウサネコ王国へ行ける。」

とミャーポンが指差したのは、このカブト山の中腹にある小さな池でした。タカシは昔、この池で遊んだことがあり入ったこともありました。深さは30センチ程度だったはずです。「本当に、あの池が異世界への入口なのか。」タカシは疑問に思いました。しかし、もう疑問には慣れっこになっていたので、ミャーポンの言葉を信じました。

二人、いや一人と一匹は立ち上がり、山の中腹へと登っていきます。

「タカシ、最近学校はどうだ?友達と楽しくやってるのか?」

『コイツ、親父みたいなこと聞くなぁ。』と思いつつも、自分のことを気にかけてくれることが嬉しくなりました。

「うん。昔ミャーポンと一緒に遊んだ友達はみんな引っ越しちゃったけど、それなりに楽しくやってるよ。でも、もうすぐ小学校卒業で、中学生になったらクラスもバラバラになっちゃうだろうし、もっと勉強もしなくちゃいけなくなるから、今までのようにはいかなくなっちゃうよね。中学生になんかなりなくないなー。」

「タカシ何言ってんだ。中学校に入れば、新しい友達ができるじゃないか。今の友達だって、昔遊んだ友達だって、生まれたときから友達だったわけじゃないだろ?中学校にだってきっといいヤツいるさ。楽しく行こうよ。」

「ありがとう。」

タカシは、ミャーポンに対して感謝の気持ちでいっぱいになりましたが、『でもこれって、友達って言うより親子の会話だよな。』と思うと、何だか笑いが込み上げてしまいました。やっぱりミャーポンは大人なんだと実感しました。

そんな会話をしているうちに、一人と一匹は池に着きました。その小さな池は木々に囲まれ、雪が降りそうな重たい色の雲の下、異様な雰囲気が漂っていました。

「さ、ここへ飛び込めば、すぐにウサネコ王国だ。」

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