


その4 うっかりミャーポン


いよいよ、タカシはミャーポンと一緒に「ウサネコ王国」へ旅立つこととなりました。

「じゃぁ、行こうか。」

ミャーポンは振り返るとタカシに同意を求めました。何度もこの池に入ったことはあったタカシですが、ワープするために飛び込むのはもちろん初めてです。タカシの『冒険をしたい』という気持ちは強く、迷いはありませんでした。しかし、いざとなると緊張して思わず唾を飲み込みました。

「ゴクリ。」

そして、ミャーポンをまっすぐ見つめ、決意し頷きました。ミャーポンはそのタカシの真剣な眼差しを確認すると、真っ直ぐ池を見ました。

「じゃぁ行くぞ、俺の後についておもいっきり飛び込むんだ。いいな?」

「うん。わかった。」

「勢いがいるからな、少し下がるぞ。」

ミャーポンは助走をするために、池の岸から少し下がりました。タカシもその後ろについて、池から距離を取りました。

「行くぞ!」

ミャーポンが走り出しました。そして、そのまま真っ直ぐ池へと飛び込みます。「ザッブーン。」タカシもすぐ後に続きます。勢いよく走り出し、勇気をふりしぼって「ヤァ!」と思わず出た掛け声とともに飛び込みます。「ザッブーン」。

冬のカブト山、池の周りはシーンと静かになりました。今にも雪が降りそうなこんな日は、人気がなくなると雪雲が音を吸収してしまうかの様に、急に静寂に包まれます。

「ウッ」

タカシは息が苦しくなり思わずもがきました。水面から顔を出すと、おもいっきり空気を吸い込みました。

「ハァ、ハァ、あれ?ハァ、ここが、ハァ。ウサネコ王国?」

タカシはずぶ濡れになって、あたりを見回しました。

「あれ…?」

そこには見覚えのある景色…。いや違います。そうではなく、どう見てもここは飛び込んだカブト山の池です。タカシは、深さ30センチのカブト山の池で、腰まで水に浸かって座っている状態でした。

「ハックション!」

ウサネコ王国にワープするはずが、ただ池に飛び込んだだけで周りの様子は変わっていません。唯一変わったことといえば、ミャーポンの姿が無くなったことです。

「ハックション!」

雪がふりそうなこんな日に、池に飛び込んだら寒くて仕方ありません。タカシはくしゃみが止まりませんでした。とりあえず、このまま水に浸かっていたら風邪をひいてしまいます。そう思ったタカシは水から出て、辺りを見回しました。すると、雪がチラチラと舞い始めました。寒くて寒くて震えが止まりません。タカシは思わず叫びました。

「おーい、ミャーポーン。」

すると、水面からミャーポンがヌッと顔を出しました。バツの悪そうな顔でタカシに言いました。

「ゴメンゴメン。」

ミャーポンはそう言うと池から出て、タカシに寄ってきました。そして、トランプくらいの大きさのカードを差し出しました。

「あのさ、ウサネコ王国へ人間が行くときには、このIDカードを持ってないと入ることができないんだ。だって、たまたまこの池に飛び込んだ人間が、みんなウサネコ王国にワープしちゃったら、大騒ぎになっちゃうもんね。」

ミャーポンは、タカシが凄い形相で自分を見ていることに気づきました。

「そんなことは、最初からわかってたことだよな?」

タカシの声のトーンは低く、明らかに怒りを抑えている様子です。

「そ、そ、そうだけど。タカシだって疑問に思わなかったんだろ?だって、この池に何回も入ったことあるよな?過去にワープしたことあったか?そこに気づかなかったよな?」

「あのな、ハックション!さんざん信じられないような話を聞かせて、ハックション!あれこれ信じろって言っておきながら、その部分だけ矛盾に気づけって?そりゃぁ無理なんじゃないの?ハックション!」

「いや、だから、その、普通に飛び込んだだけではワープできないって言うのを、身をもって教えてあげたかったと言うか…、あ、その…。」

ミャーポンの言い訳はだんだん苦しくなってきました。タカシの怒りはまだ収まりません。じれったく思ったタカシは、強い口調で言い切ろうとしたのですがクシャミが止まりません。

「ハックション!あのさ、ただ言うのを忘れてたんだろ?ハックション!」

「うん…。」

「ゴメンナサイは?」

「ごめんなさい。許してくれる?」

ミャーポンはまた耳がクタンとして、上目づかいにタカシを見上げました。ちょっと強く怒ってやろうと思っていたタカシでしたが、その可愛らしいミャーポンの姿を見て思わず許してしまいました。

「わかった、わかった。許してあげるよ。それじゃあ行こうか。」

「わーい。じゃぁ、改めてしゅっぱーつ!」

ミャーポンは急に元気に威勢を取り戻しました。可愛らしい子ネコのような表情は、どこかへ行ってしまいました。その姿を見ていたタカシは、『さっきのしおらしい雰囲気はどこへ言ったんだ。なんなんだこの身代わり術は。』と思いましたが、素直に謝ったのでそのまま許してあげることにしました。

「じゃぁ、このIDカードくわえて。」

「え?くわえるの?ハイテクだね…。」

「ザッブーン。」

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